みなさんは、「仮面うつ病」という病名をご存じでしょうか。この病気はうつ病と同じように心の病ではあるのですが、症状はうつ病とは異なっており、本人も自覚しにくい病気です。
うつ病というものは、その名のとおり、うつ症状が現れます。つまり、気分が重く、沈みがちで、無気力になり、何事もくよくよと悪いほうへ悪いほうへと考えてしまいがちになるのです。うつ状態とは、生きるためのエネルギーが落ち込んでしまった状態、つまり生きる力がダウンして、さらに悪化すると自殺願望が強くなるのですから、ばかにできない病気です。
とりたてて奇怪な行動をとるようなことはありませんが、何となく元気がないなど、本人はもちろん、家族や職場の人なども注意深く観察していれば、ある段階で「ちょっとおかしいな」と気づくことができます。
ところが、この仮面うつ病は、人付き合いが悪くなって元気がなくなったといった、いわゆるうつ病らしい症状が精神面には出ません。だるくて朝起きられないといった、体の症状となって現れてくるのです。うつ病らしい精神症状が表に出ず、身体症状によって隠されてしまうことから、仮面をかぶったうつ病=「仮面うつ病」といわれているのです。
ですから、本人にも心が病んでいるといった自覚症状がありません。自覚しないどころか、自分が心の病になるなんて考えもしないのです。本当はストレスが徐々にたまり、SOSが出ているのに、社会で働く以上、多少の悩みは当然だとばかりに、突っ走っている人も多いのです。
この病気は、特に二十代の、はりきって仕事をしようという人たちに急増しています。クリニックを訪れる患者さんの中でもいちばん多いのが、この仮面うつ病の患者さんです。
眠れない、起きうれないは「仮面うつ病」の代表的症状
仮面うつ病の代表的な症状は、体がだるくて、なかなか朝起きる気がしないというものです。午前中はぼーっとしていて、夕方くらいになってやっと元気が出てくるといった具合です。朝起きるのが大好きで、いつもすっきりと目覚めている人はあまりいません。そのため、仮面うつ病であっても、自分は朝が弱いんだくらいにしか思わないのです。
このほかに、寝つきが悪いという症状もあります。今までは横になったら一分もたたないうちに寝息をたてていたような人が、一時間たっても二時間たっても眠れなくなるのです。しかも、なかなか寝つけないばかりか、やっと眠れたと思ったら、ちょっとした物音で目が覚めてしまいます。また、明け方やっと眠れたかと思ったら、今奮闘している仕事がなかなかうまくいかないなど、気がかりなことが出てくる現実的な夢を見たりします。
当然、睡眠時聞は少なくなり、ぐっすり眠っているわけではないので、臨眠の質も悪くなります。朝起きられないのはもちろん、起きるとずいぶん疲れた感じで、午前中はどうしょうもなく体がだるいという悪循環が起きます。この状態がさらに進めば、頭が重く、気分がすっきりしないことが多くなります。
こういった症状はすべて、「朝に弱い」人と比べてみても特に変わったところはありません。ちょっと最近ストレスがたまりぎみかなという程度で、「仮面うつ病」などという病名があるなんて夢にも思わないのです。
「睡眠障害である」という認識を持て
初期の仮面うつ病は、重大な病気というよりは、風邪程度のものと考えてくだのどおかんさい。ちょっと喉が痛いとか、悪寒がするといった症状の代わりに、朝起きられない、夜寝つけない、そのためにだるくて集中力がないといった症状が出ているのです。
ですから、たまには息抜きも必要で、休み時間にスポーツをしたり、欽みに行ってカラオケで盛り上がったりして発散すれば、自分でも気がつかないうちに治っていることもあります。
何度も述べたように、朝起きられないということが病気の症状だとは、だれも思いません。
まして、仮面うつ病になるような人は、「具合が悪いから今日も休んじゃおう」というのんきなタイプというよりは、がんばり屋の人が多いので、自分の生活態度が悪いとか、自我が弱くて自分に負けてしまっているんだというように、それこそ自分を責めてしまいます。しかし、それは逆効果なのです。こういう人たちは、こんな大事なときに体調が悪いなんでいっていられない。
病は」戸丸からだと、自分にムチ打って仕事に精を出します。すると、さらに睡眠不足がつのり、集中力もなくなり、体がだるくて仕方ありません。やがては食欲もなくなり、体重も減り始めます。ここまでくるとさすがに、少し体の具合がおかしいんじゃないかという気になり、病院を訪れます。当然、精神科などは思いもよらず、内科で診察を受けるでしょう。体がだるくなる病気の代表的なものは肝臓障害ですから、まず肝機能検査をするように診断されます。しかし、原因はストレスですから、肝臓に異常があるはずもありません。
「ちょっと疲れがたまっているんでしょう。できるだけゆっくり休養をとったほうがいいですね」と、アドバイスされて終わりです。原因であるストレスを解消しなくては、少しも症状はおさまらないでしょう。
人は、体に不調があると、心が滅入るものです。まして、いとなれば、いろいろな心配も頭を駆けめぐるでしょう。そして、さらにストレスを生み、どんどん悪化するという悪循環を招きます。では、どうすればいいのか。仮面うつ病とはストレスによる睡眠障害だと、しっかり認識することです。そのうえで、医師のもとを訪ねてください、最近は、抗うつ剤も非常に進歩しています。
数週間薬を飲めば、また心地よい睡眠が戻ってくるでしょう。朝起きられないという、一見怠惰に見える状態であっても、睡眠障害がその要因になっている場合があります。仮面うつ病は、うつ病の中ではごく初期の段階なので、重くならないうちに治しておくことが大切です。
